万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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大伴家持の坂上大嬢(さかのうへのおほをとめ)に贈れる歌一首

春霞たなびく山の隔(へな)れれば妹(いも)に逢はずて月そ経(へ)にける

右は、久邇(くに)の京(みやこ)より寧楽(なら)の宅(いへ)に贈れり。

巻八(一四六四)
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春の霞のかかる山を間に隔てているのであなたに逢うこともなくひと月が経ってしまいました
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この歌は久邇(くに)の京(みやこ)に居た大伴家持(おほとものやかもち)が、奈良の平城京に居る恋人の坂上大嬢(さかのうへのおほをとめ)に贈った一首です。
天平十二年(七四〇)、藤原広嗣(ふじはらのひろつぐ)の反乱などで心情を乱された聖武天皇(しやうむてんわう)は突如、京を山城の久邇京へ遷都する宣言をしました。
左注に「右は、久邇(くに)の京(みやこ)より寧楽(なら)の宅(いへ)に贈れり。」とあるのは、そんな聖武天皇に従って新京の久邇京の造営に家持が携わっていたことを示しています。

そんな久邇京にいる家持が奈良の平城京に残っている坂上大嬢に贈った恋歌ですが、「春の霞のかかる山を間に隔てているのであなたに逢うこともなくひと月が経ってしまいました」と、離れ離れになったままひと月が過ぎてしまった寂しさを訴える内容となっています。
久邇京と平城京を隔てる山と言えば奈良山のことを指しての表現でしょうか。
「春の霞のかかる」との表現に、山の向こうに居る大嬢の姿がぼんやりと霞んで思い出されるとの心情も託しているのかも知れませんね。

この歌は巻四(七六五)の歌などと同時期のものですが、突然の遷都の宣言で恋人と離れ離れになってしまった家持の寂しい心情がよく表れている一首のようにも思います。

以上、この歌まで巻八の春の相聞の部でした。



京都府木津川市にある恭仁京跡。



恭仁京(久邇京)は遷都後五年ほどで再び奈良の平城京に都が戻されます。
平城京に京が戻った後も久邇京の大極殿はそのまま残され、後に山城国国分寺の金堂として利用されたようです。



奈良の平城京跡に復元された第一次大極殿。
平城京の第一次大極殿はもともとは藤原京の大極殿として建造されたのを奈良に移築したもので、その大極殿がさらに久邇京に移されて寺院の金堂として役目を終えたというのはなんとも壮大な歴史ですよね。


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万葉集巻八


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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