万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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大宰師大伴卿の酒を讃(ほ)むるの歌十三首

験(しるし)なき物を思(おも)はずは一杯(ひとつき)の濁(にご)れる酒を飲むべくあるらし

巻三(三三八)
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考えても仕方のない物思いをするぐらいなら、一杯の酒を飲むほうがよほどいいらしい
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この歌は大伴旅人(おほとものたびと)の作。
旅人は、万葉集の編者ともいわれる大伴家持(おほとものやかもち)の父で、九州の隼人の反乱を鎮圧する「征隼人持節大将軍」などの職に就き武門の名門大伴家の主にふさわしい活躍もしましたが、反面、歌を詠み酒を愛する享楽家でもあったようです。

この歌は詞書にもあるように酒を誉める歌として詠んだ十三首の歌のうちの一首。
これも詞書に大宰師とあることから時期は、旅人が太宰府の長官として九州の筑紫(つくし)に赴任してからのものでしょうか。
「あれこれと悩んで物思いしているぐらいなら、一杯の酒を飲んだほうがいいらしい」とは、いかにも旅人らしさが表れていて面白いですね。

ただ、一見すると単純に酒好きの酒を褒め称えただけの歌とも読めますが、「験なき物を思はずは」などの上の句からはこの時期の旅人が憂鬱な日々を送っていたことも想像できます。
この前後、奈良の京では藤原不比等(ふじはらのふひと)とその子である藤原四兄弟を中心とした新興勢力の藤原氏が権勢を奮い始めており、旧来からの貴族・豪族たちと対立していました。
当初は藤原家とそれなりに良好な関係を築いていた長屋王も藤原不比等の死後、天皇の後継問題をめぐる対立などで徐々に藤原四兄弟と対立色を強めいていきます。
旅人の大宰府赴任は、そんな情勢の中で京を離れるという不本意な左遷に近いものであったと言えます。

また、その後の大宰府赴任中に(藤原不比等の死でいったんは勢いづいたであろう)旧貴族派の中心人物である長屋王が謀反を企んだ罪で自害に追いやられるという「長屋王の変」が起こるなど、長屋王寄りであったと思われる旅人にとっては傷心の出来事が次々に起こります。
(長屋王の変については巻三:四四一を参照。)
そんな時期に中央の政治から切り離され九州の筑紫という僻地に追いやられていた旅人。
この酒を讃むるの歌十三首は、そんな藤原家への不満と自身の境遇を慰めながら詠んだ失意の歌でもあったのではないでしょうか。

以降、旅人の「酒を讃むるの歌十三首」を紹介して行きますので、お付き合いください。


奈良時代初期の高杯(たかつき)。
高坏は主に木の実などを盛るのに使われたようです。
平城宮跡資料館展示品。



奈良時代中期の杯(つき)類。
酒類はこのような杯に入れられたようですね。
平城宮跡資料館展示品。


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万葉集巻三


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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