万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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やすみしし わご大君 神ながら 神さびせすと 吉野川 激(たぎ)つ河内に 高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば 畳(たたな)はる 青垣山(あおがきやま) 山神(やまつみ)の 奉(まつ)る御調(みつき)と 春べは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉(もみじ)かざせり 逝(ゆ)き副(そ)ふ 川の神も 大御食(おほみけ)に 仕(つか)へ奉(まつ)ると 上(かみ)つ瀬に 鵜川(うかわ)を立ち 下(しも)つ瀬に 小網(さで)さし渡す 山川も 依(よ)りて仕ふる 神の御代かも

巻一(三十八)

反歌
山川も依(よ)りて仕ふる神ながらたぎつ河内に船出せすかも
巻一(三十九)
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わが天皇が、神そのものとして、神々しくおられるとして、吉野川の流れ激しい河内に、見事な宮殿を高くお作りになり、そこに登り立って国土をご覧になると、何層にも重なる青い垣根のごとき山では、山の神が天皇に奉る貢ぎ物として、大宮人らは春には花を挿頭(かざし)に持ち、秋になると紅葉を頭に挿しているよ。
宮殿をめぐって流れる川の神も、天皇の食膳に奉仕するというので、大宮人らは上流には鵜飼いを催し、下流には網を渡して魚を捕っているよ。
ほんとうに、山も川もこぞってお仕えする神たる天皇の御代だなあ。
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この歌も持統天皇が吉野の宮に行幸したとき、同行した柿本朝臣人麿(かきのもとのあそみひとまろ)が詠んだものだといわれています。
ただ、持統天皇は在任中に三十三回も吉野に行幸されたので巻一(三十六)の歌と同じ時に詠まれたものかどうかは不明。。

持統天皇(ぢとうてんわう)は天武天皇(てんむてんわう)の妻で、天武天皇が亡くなった後即位します。
ほんとうは持統天皇は自分の子である草壁皇子(くさかべのみこ)を天皇にしたかったようで、姉の子である大津皇子を謀殺したりと無益な血も流したようですが、結局、草壁皇子は病弱で即位できずに亡くなってしまったため、持統天皇が即位することになりました。

柿本人麿(かきのもとのひとまろ)のこの長歌では、なんとも大層に天皇を誉め讃えていますね^^;
これはまあ、柿本人麿が宮廷歌人であり、天皇を誉め讃える歌などを詠むことを仕事にしていたので仕方のないことです。

この時代、大和朝廷の力が増大してゆき、かつての「天皇=神との交信者」から、「天皇=現人神(あらひとがみ)」というように、天皇をより神に近いものとして扱うようになってきたようです。

この歌でも、大宮人たちの頭に挿す花や鵜飼いの捕った魚を、吉野の山の神や川の神が天皇に貢ぎ物をしたものと詠われていますね。
そして、山の神も川の神も天皇に仕える御代になったと…

このように天皇を讃える歌は他の人物たちも詠んでいますが、柿本人麿の歌はその雄大さで群を抜いたものがあります。
他の作者の歌が、あくまで現実の風景の域を出ないのに対して、人麿の歌はときに、そこにほんとうに山の神や川の神が居て、天空まで届くかのような高殿がそびえ立っているかのような情景を目の前に生み出したりすることがあります。

そんな壮大な歌を詠むと同時に、宮廷から離れた場では非常に人間味と深みのある歌も残しています。
これが人麿が万葉集時代最高の歌人であり歌聖と讃えられる由縁です。


宮滝遺跡。
吉野宮はいまの中荘小学校(現在は閉校となって野外学校の施設として利用されています)のあたりにあったといわれています。


宮滝の吉野川

この歌についてもぜひ、意訳を頭に浮かべながら、(出来るなら実際に吉野の宮滝から吉野川を眺めながら)声に出して読んでみて下さい。
その調べの雄大さと、歌の壮大さにみなさんも心をうたれることと思います。

(反歌についてはまた後ほど)


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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