万葉集入門
万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

スポンサード リンク


湯原王(ゆはらのおほきみ)の芳野(よしの)にして作れる歌一首

吉野なる夏実(なつみ)の河の川淀(かはよど)に鴨(かも)そ鳴くなる山陰にして

巻三(三七五)
-----------------------------------------------
吉野の夏実の川の川淀に鴨が鳴いているようだね。山の陰の向こう側で。
-----------------------------------------------

この歌は湯原王(ゆはらのおほきみ)が吉野の夏実で鴨の声を聞いて詠んだ一首。
夏実は現在の奈良県吉野町の菜摘地区。

湯原王は志貴皇子(しきのみこ)の第二子であり、天智天皇の孫にあたります。
父である志貴皇子については巻三(二六七)の歌の解説の時にも紹介しましたが、壬申の乱の後、近江朝廷が敗れてのちの天武・持統天皇の治世下で、敗北者側の皇子としてずいぶん危うい立場にいたようです。
その子である湯原王についても同じで天智天皇の孫であるにもかかわらず任官などの記録は一切残っていないことから、政争に巻き込まれたり暗殺されたりすることを恐れて無欲を装い歌などを楽しむ風流人として生き延びる道を選んだのではないかと想像できます。
それゆえか、湯原王の歌には他の万葉歌人の歌とはまた違った小説的構成をなされた相聞歌など、個性ある風流な作が多いように感じられます。

この歌もまたそんな湯原王らしい特色ある一首で、一読してすぐに内容の分かる情景歌ですね。
おそらくは実際に吉野の夏実を訪れたときの一首なのでしょう。
吉野の菜摘地区は宮滝離宮跡から国道169号線を少し東に進んだ三叉路を吉野川に沿って北上したすぐの場所にあり、車の通りも少ないためにいまでも静かな静寂に包まれた土地です。
みなさんも、もし機会があればぜひ実際に菜摘の地を訪れて湯原王のこの歌を口ずさんでみてほしいと思います。
そうすることで、千数百年の時を越えて湯原王の心が現在に蘇ってくるような、そんな不思議な感覚を味わうことが出来るはずです。


奈良県吉野郡菜摘。
宮滝離宮跡から国道169号線を少し東に進んだ三叉路を吉野川に沿って北上したすぐの場所にあります。



上の写真の吉野川に架かっている橋を渡って、山手の集落の中に入ったすぐの菜摘十二社神社の境内にこの歌の歌碑も立っています。
湯原王らしい個性的な形の歌碑ですね。



菜摘の山手の集落の中にある菜摘十二社神社。
この神社の境内に湯原王のこの歌の歌碑があります。


スポンサード リンク


関連記事
万葉集巻三の他の歌はこちらから。
万葉集巻三


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

万葉集入門(トップページ)へ戻る

当サイトはリンクフリーです、どうぞご自由に。
Copyright(c) 2015 Yoshihiro Kuromichi (plabotnoitanji@yahoo.co.jp)


スポンサード リンク


欲しいと思ったらすぐ買える!楽天市場は24時間営業中

Amazon.co.jp - 通販