万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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鏡王女(かがみのおほきみ)の作れる歌一首

風をだに恋ふるは羨(と)もし風をだに来(こ)むとし待たば何か嘆(なげ)かむ

巻四(四八九)
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風が吹いただけでも恋できるのは羨ましいことです。風が吹いたことで愛しい人が来たのかもと期待して待っていられるなら何を嘆きましょう。
(愛しい人がけっして来ないと分かっている私には風が簾を動かしても何の感慨すらも湧かないのですから…)
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こちらは額田王が詠んだ先の巻四(四八八)の歌に、姉である鏡王女が唱和して応えた一首。
「簾の動く音に愛しい人が来てくれたのかもと振り返ってみたら風が簾を動かしただけだった…」と嘆く額田王に対して、「そんなふうに愛しい人が来てくれたのかもと思えるだけでも貴女は幸せです。来てくれないと分かりきってる私には風が簾を動かしてもこころが揺れることすらないのですから…」と、愛しい人の愛情が完全に去ってしまった境遇を嘆いています。

鏡王女は天智天皇と交した相聞歌(巻二:九一) や (巻二:九二)があることなどから、天智天皇の妃であったとも言われています。
しかし天智天皇の愛はやがて鏡王女の妹である(しかも天智天皇の弟の大海人皇子の妻でもある)額田王へと移ることになります。
鏡王女はその後、藤原鎌足の妻となったとも云われています。
(これには天智天皇の盟友であった鎌足が鏡王女に惚れていたのを譲ったのだという説も…)

この歌が詠まれた時期や背景ははっきりとは分かっていませんが、あるいはこれは夫であった鎌足が亡くなった後のものだとするなら、その場合はすでに亡くなっている愛する夫が簾を動かして来てくれるはずがないという意味になりますね。
ただ、たとえ亡くなっていても黄泉の国から愛しい人が簾を動かし帰ってきてくれると信じるのが万葉時代の人々の感性だと僕は思いますし、だとするならやはりこれは愛情が妹に移ってしまった天智天皇を念頭に置いての歌ではないかとも思うのです。

この時代は姉妹でひとりの男性の愛を受けることはそれほど不自然なこととは考えられていなかった時代ですが、それでも妹が自分のかつての夫であった天智天皇の訪れを期待して詠む恋歌を聞かされる鏡王女の心情は複雑なものがあったのではないでしょうか…


桜井市忍坂にある鏡王女の墓。



鏡王女(鏡女王)は舒明天皇の皇女であったとも云われ、このお墓も舒明天皇陵のすぐ傍にあります。



舒明天皇陵の前の小川沿いの細い道を進んで行けば鏡王女のお墓に辿り着きます。
途中、小川のほとりには巻二:九二の歌の歌碑もあります。



桜井市忍坂の鏡王女のお墓へ行く途中にある巻二:九二の歌の歌碑があります。



鏡女王(鏡王女)押坂墓の解説。


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万葉集巻四の他の歌はこちらから。
万葉集巻四


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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