万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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或(ある)は曰(い)はく、昔三(みたり)の男ありき。同(とも)に一(ひとり)の女(をみな)を娉(よば)ふ。娘子嘆息(をとめなげ)きて曰はく「一(ひとり)の女の身の滅易(けやす)きこと露の如(ごと)く、三(みたり)の雄(をのこ)の志(こころ)の平(にき)び難きこと石(いはほ)の如し」といふ。遂に及(すなは)ち池の上(ほとり)に彷徨(たもとほ)り、水底(みなそこ)に沈没(しず)みき。時にその壮士等(をとこら)、哀頽(かなしび)の至(きはみ)に勝(あ)へずして、各々所心(おもひ)を陳(の)べて作れる歌三首 〔娘子、字(な)を縵児(かづらこ)と曰ふ〕
由縁:訳
別に次のような伝えもある。昔、三人の男が居て、同時に一人の少女に求婚した。少女がため息をついて言うには「一人の女の命の儚さは露のようなもので、三人の男の気持ちの和み難きことは岩のようです」と。遂には池のほとりを彷徨って、水底に身を投げてしまった。その時、男たちは悲しみに耐えられず、それぞれに思いを述べて作った歌三首 〔娘子は名を縵児と言った〕。
耳無(みみなし)の池し恨めし吾妹子(わぎもこ)が来つつ潜(かづ)かば水は涸(か)れなむ 一
巻十六(三七八八)
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耳無の池は恨めしいことだよ、あの子がやって来て身を投げたら水は涸れて欲しかった
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この歌は先の巻十六(三七八六)の歌や巻十六(三七八六)の歌の桜児伝説とに付載した同趣の伝承歌です。
その由縁によると、昔、三人の男が居て同時に一人の少女に求婚したのだそうです。
少女は「一人の女の命の儚さは露のようなもので、三人の男の気持ちの和み難きことは岩のようです」と言い、遂には池のほとりを彷徨って水底に身を投げて死んでしまったのだそうです。
その時に、男たちが悲しみに耐えられずにそれぞれに思いを述べて作った歌の一つがこの歌で、「耳無の池は恨めしいことだよ、あの子がやって来て身を投げたら水は涸れて欲しかった」と、少女の身投げした耳無の池を恨む内容となっています。
もちろん、池を恨んでもどうしようもないことは分かってはいるのでしょうけれど、あの子が身投げたときに水が涸れて欲しかったとの思いはよく分かるものがありますよね。
そんな最愛の少女を喪った男の、他にやり場のない悲しみがよく表れている一首のようにも感じます。
ちなみに、桜児伝説が畝傍山周辺の物語だったのに対して、こちらの縵児伝説は同じ大和三山の一つ、耳成山(耳無山)周辺の伝説となっています。
あるいはこれらの伝説が後に天智天皇の三山の歌の伝説万葉集巻一(一三)に発展していったのかも知れませんね。
奈良県橿原市の耳成山の麓、耳成山公園にあるこの歌の歌碑。
歌碑は耳成山の南の池のほとりに立っていますが、この池は縵児の身投げした池ではないそうです。
縵児が身投げした池は耳成山の西にあったもので現在はもう存在しません。
それでも、この池のほとりに立ってこの三人の男の歌を口ずさむと、縵児を喪った三人の男の哀しみが現代によみがえってくるようなそんな気がします。
歌碑の解説。
大和三山の一つでもある耳成山(耳無山)。
耳成山は標高の低い山で、片道十五分ほどもあれば山頂の山口神社まで登ることが出来ます。
(池の南に無料の駐車場もあり、登山はどなたでも自由に出来ます。)
耳成山の山頂にある耳成山 山口神社由緒。
耳成山 山口神社の拝殿にある由緒に、この歌の解説も書かれていました。
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万葉集巻十六
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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