万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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穂積親王(ほづみのみこ)の御歌一首

家にありし櫃(ひつ)に鍵刺(かぎさ)し蔵(をさ)めてし恋の奴(やつこ)のつかみかかりて

右の歌一首は、穂積親王の、宴飲(うたげ)の日に、酒酣(たけなは)なる時に、好みてこの歌を誦(よ)みて、以ちてつねの賞(めで)としたまひき。

左注訳
右の歌は、穂積親王が宴会の日に、酒がたけなわになった時に、好んでこの歌を口ずさみ、よっていつも賞美された。

巻十六(三八一六)
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家にあった櫃に鍵をかけてしまっておいた恋の奴めがまたつかみかかってきて…
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この歌は、題詞に「穂積親王(ほづみのみこ)の御歌一首」とあるように、穂積親王が詠まれた一首のようです。
左注によると、穂積親王は宴会の日に、酒がたけなわになった時に好んでこの歌を口ずさみいつも賞美された、とあり、いわば穂積親王のお気に入りの歌だった訳ですね。

穂積親王は天武天皇の皇子で、若い頃は穂積皇子といい、万葉集においては異母兄妹の但馬皇女(たぢまのひめみこ)との悲恋の関係でも有名な親王です。
穂積皇子と但馬皇女の悲恋については、万葉集巻二(一一四)や万葉集巻二(二〇三)などを参照。

但馬皇女との悲恋の恋からかなりの時間が経過した頃でしょうか。
きっともう若くはない穂積親王は、「恋なんてものは家の櫃に鍵をかけてしまっておいた」ような当時としてはもうお年寄りの心境になっていたのでしょうね。
そんな親王が、「家にあった櫃に鍵をかけてしまっておいた恋の奴めがまたつかみかかってきて…」と、またもや恋に落ちてしまった心境を詠っています。
「奴(やっこ)」とは、身分の低い当時の賤民のことですが、ここでは恋のことを軽んじて自嘲気味にこう表現したのでしょう。

まあ、酒の席で好んで口ずさんだとのことなので、実際にこの歌を作ったのはもっと以前のことなのでしょうけれど、但馬皇女の死後にも穂積親王にはさまざまな恋があったのでしょうね。
大伴家持(おほとものやかもち)の叔母の大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)は、初め、穂積皇子の妻になったそうなので、あるいは但馬皇女との後にはもうほんとうの恋などないだろうと思っていた皇子が坂上郎女と出会ってまた恋に落ちてしまったときの想いを詠った歌と想像してみても面白いかも。

穂積皇子と但馬皇女の悲恋の物語を好む方には納得のいかない部分もあるかも知れませんが、人間というものは生きている限り恋し続けるものだと僕は思います。

どちらにしても、酒に酔って、昔作った恋歌を得意げに誦う親王の姿が目に浮かんでくるようで楽しい一首ですよね。
「つかみかかりて」と言い差しの表現ではっきりと言い切らない歌としての甘さも、酔いのまわった姿で誦う酒の席では逆に面白い魅力として活きたのではないかと思います。


櫃(ひつ)の復元模型(平城京資料館)。



櫃は本来は巻物などの大切なものをしまっておくための箱です。


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万葉集巻十六の他の歌はこちらから。
万葉集巻十六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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