万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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酢(す)、醤(ひしほ)、蒜(ひる)、鯛(たひ)、水葱(なぎ)を詠(よ)める歌

醤酢(ひしほす)に蒜搗(ひるつ)き合(あ)てて鯛願ふわれにな見えそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)

巻十六(三八二九)
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醤と酢に蒜を混ぜて鯛を食べたいと願っているのに、私に見せるな水葱の羹など
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この歌も巻十六(三八二四)の歌などと同じく、長忌寸意吉麿(ながのいみきおきまろ)が詠んだ歌のひとつ。
題詞には「酢(す)、醤(ひしほ)、蒜(ひる)、鯛(たひ)、水葱(なぎ)を詠(よ)める歌」とあり、おそらくは先の巻十六(三八二八)の歌と同じく、この歌も宴席などで出席者たちからそれぞれに出されたお題を詠み込んで詠った題詠なのでしょう。
歌の上手の長忌寸意吉麿にこの手のお題を詠ませるのは、宴席でのお決まりだったのかも知れませんね。
今回もすべての題を詠み込んで見事に一首の歌として仕上げています。

酢(す)、は米を蒸して作るお酢。
醤(ひしほ)、は小麦と大豆を煎った麹に塩水を加えて作ったようで、現在の醤油でしょうか。
蒜(ひる)、は植物のノビルで、現代でも球根を味噌などで食べると非常に美味です。
鯛(たひ)は、魚のタイのこと。
水葱(なぎ)は植物の水アオイで、広く栽培して食用とすることを勧められたようですが、あまり美味ではなかったのでしょうね。
羹(あつもの)は汁。

歌の内容はそんな「醤と酢に蒜を混ぜて鯛を食べたいと願っているのに、私に見せるな水葱の羹など」と、当時の食生活が感じられる興味深い一首となっています。
野蒜はネギに似た臭いがしますが、そんな蒜を擦り潰して醤と酢に混ぜたものを鯛に添えて食べるとは、聞いただけでも美味しそうですよね。
それに対して水葱(なぎ)はあまり美味しくなかったようで、意吉麿は見るのも嫌だという風に詠っています。

まあ、題詠なので歌として成立させるために多少大げさに表現している部分はあるのかも知れませんが、当時の人々の食の好みを知る上でも興味深い面白い内容の歌のように思います。


蒜(春日大社神苑)。
蒜(ひる)は野蒜(ノビル)のことで、野原などにも広く自生しており春に球根を味噌などにつけて食べると美味だそうです。



ノビルとこの歌の解説プレート(春日大社神苑)。



水葱(春日大社神苑)。
水葱(なぎ)は水アオイ科のコナギのこと。



コナギの花。



水葱は朝廷によって広く栽培して食用とすることを勧められたようですが、この歌を見る限りではあまり美味ではなかったようですね。



コナギとこの歌の解説プレート(春日大社神苑)。


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万葉集巻十六


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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