万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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飼飯(けひ)の海(うみ)の庭好(にはよ)くあらし刈薦(かりこも)の乱(みだ)れ出(い)づ見ゆ海人(あま)の釣船
一本に云はく、武庫(むこ)の海の庭よくあらしいざりする海人の釣船波の上ゆ見ゆ

巻三(二五六)
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飼飯の海の海上も穏やからしい、刈り取った薦のようにあちらこちらから出て来るのが見えるよ。海人たちの釣り船が。
一本に云わく、武庫の海の海上も穏やからしい、漁をする海人の釣船が波の上に見えるよ。
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この歌も巻三(二四九)の歌などと同じく、柿本朝臣人麿(かきのもとのあそみひとまろ)が詠んだ八首の旅の歌のうちのひとつ。
人麿たちの向かっている場所など読みようによってはさまざまな解釈が出来る一首ですが、ここでは一応、先の巻三(二五五)の歌の続きとして解釈しておきますね。

巻三(二五五)の歌で他界との境をさまようような不安な舟旅から無事明石の海峡へ戻って来た人麿たちでしたが、こちらの歌でも「飼飯の海の海上も穏やからしい、刈り取った薦のようにあちらこちらから出て来るのが見えるよ。海人たちの釣り船が。」と、陸地近くへ戻って来た安堵感が遠くに見える海人たちの釣り船を詠うことによって表現されています。
「海上も穏やからしい」というのは「海の神も穏やからしい」との意味が込められているのでしょう。

「飼飯(けひ)」は淡路島西側。
つまりこの場合は人麿たちは明石海峡から遠く海の向こうの淡路島のほうを見ているわけですね。
(ちなみに「一本に云はく」の「武庫(むこ)」は尼崎市、西宮市一帯のことですが、これは「飼飯の海」だと人麿たちがふたたび淡路島に向かったようにも取れてしまうために後に人麿自身が詠み変えたものなのかも…)

この歌も、おそらくは「飼飯の海の海上も穏やからしい」と詠うことで、舟旅の不安で動揺していた自身の心を安心させて不安な心の揺れを鎮めようとしたものなのでしょうね。
このあたりの感覚は現代人にはなかなかわかりにくいかも知れませんが、このように「海(海の神)も穏やからしい」と歌の言霊として詠われることで、人麿やその周りにいた人々にとってはその内容が現実のものとして確信へと変わり「もうなにも心配はいらないのだ」とのこころの安らぎを得ることが出来たわけです。

以上、柿本人麿の詠んだ八首の羈旅(たび)の歌でした。


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万葉集巻三


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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