万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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或る本の歌に云はく
天降(あも)りつく 神(かみ)の香山(かぐやま) 打(う)ち靡(なび)く 春さり来(く)れば 桜花(さくらばな) 木(こ)の晩(く)れ茂(しげ)に 松風に 池波立ち 辺(へ)つへには あぢむら騒(さわ)き 沖辺(おきへ)には 鴨妻(かもつま)呼はひ 百(もも)しきの 大宮(おほみや)人の まかり出て 漕ぎける舟は 竿梶(さをかぢ)も 無くてさぶしも 漕がむと思へど
右は今案(かむが)ふるに、都を寧楽(なら)に遷しし後に旧(ふる)きを怜(あはれ)びてこの歌を作れるか。
巻三(二六〇)
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天から降りてきたという神の香具山に、打ち靡く桜の花は木の下も暗くなるほど繁り、松風に池は波立ち、岸の方では味鴨が鳴き、沖の方では鴨が妻を呼んで鳴き、壮麗な大宮人が退出して遊ぶはずの舟には、竿も梶もなくて私が漕ごうと思っても無理なことでした…
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この歌も香具山を詠んだ一首で、巻三(二五七)の歌の異伝。
おそらくは鴨君足人(かものきみのたりひと)が詠んだ巻三(二五七)の歌が伝承される過程で語句が入れ替わって伝わったものなのでしょう。
歌の内容も巻三(二五七)の歌とほぼ同じなのでほとんど解説の必要もありませんね。
結句の「竿も梶もなくて私が漕ごうと思っても無理なことでした…」は、巻三(二五八)の歌の「池に潜る鴦やたかべが船の上に住んでいます。」という内容と少し矛盾しますが、これも反歌が切り離された状態で伝承されたためなのでしょう。
神の香山(香具山)。
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万葉集巻三
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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