万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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日本挽歌(にほんばんか)一首
大君(おほきみ)の 遠の朝廷(みかど)と しらぬひ 筑紫(つくし)の国に 泣く子なす 慕ひ来まして 息(いき)だにも いまだ休(やす)めず 年月(としつき)も いまだあらねば 心ゆも 思はぬ間(あひだ)に うち靡き 臥(こや)しぬれ 言はむ術(すべ) 為(せ)む術(すべ)知らに 石木(いはき)をも 問(と)ひ放(さ)け知らず 家ならば 形(かたち)はあらむを うらめしき 妹(いも)の命(みこと)の 我(あれ)をばも 如何(いか)にせよとか 鳰鳥(にほどり)の 二人並び居(ゐ) 語らひし 心背(そむ)きて 家さかりいます
巻五(七九四)
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大君の遠い朝廷として、知らぬ日の国の筑紫の国に、妻は泣く子のごとくわたしを慕ってきて、息もまだ休める間もなく、年月も経っていないので心から睦みあうこともないうちに、病に臥してしまった。言葉にする術もなく、どうする術もなく、石や木に問うても意味もなく、奈良の家にいたのなら元気でいただろうに、恨めしいことに妻はどうしろというのか、鳰鳥のように二人並んで語り合った言葉に背いて、家を遠ざかって行ったよ。
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この歌は大伴旅人(おほとものたびと)の妻の死(巻五:七九三も参照)に対して山上憶良が贈った追悼歌です。
この歌の前に収録されている追悼文が漢文となっているのに対して、こちらは題詞に「日本挽歌」と付けられているように日本古来からの伝統的な和歌(長歌)形式となっています。
歌の内容としては冒頭で「筑紫の国に、妻は泣く子のごとくわたしを慕ってきて、息もまだ休める間もなく、年月も経っていないので心から睦みあうこともないうちに、病に臥してしまった。」と、大伴旅人の立場に立って妻である大伴女郎(おほとものいらつめ)が突然の病に臥せった様子を詠っています。
この歌に詠われているように、大伴旅人の妻の大伴郎女は、大宰師として筑紫に赴任した旅人とともに大宰府にやってきて間もなく病になりました。
奈良の京を離れて遠く筑紫の国に派遣されたこの大伴旅人の人事は、藤原家にとって邪魔な存在であった旅人を京から遠ざける左遷であったともいわれています。
あるいは左遷でなかったにしても、年老いた身で筑紫に赴かねばならない人事に旅人は心楽しまなかったのは確かなようですね。
それゆえに、「奈良の家にいたのなら元気でいただろうに」との無念の思いは、作者である山上憶良の想像とはいえ、おそらくは旅人自身も実際に感じていたことだったのでしょう。
「鳰鳥(にほどり)」は水鳥のカイツブリのことですが、そんな「池に並んで浮かぶ鳰鳥のように共に長く居ようと誓い合った言葉に背いて、家を遠ざかって行ったよ。」との妻の死を詠った結びが、旅人の心情そのもののようになんとも哀しく響いてきますよね。
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万葉集巻五
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万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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