万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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憶良、誠惶頓首(せいくわとんしゆ)、謹みて啓(まを)す。
憶良聞かく「方岳(はうがく)の諸侯と都督刺史(ととくしし)とは、並(とも)に典法(てんぱふ)に依りて、部下を巡行して、その風俗を察(み)る」と。意(こころ)は内に多端に、口(ことば)は外に出し難し。謹みて三首の鄙(いや)しき歌を以(も)ちて、五蔵の欝結(むすぼほり)を写(のぞ)かむと欲(ねが)ふ。その歌に曰はく


松浦県佐用比売(まつらがたさよひめ)の子が領巾振(ひれふ)りし山の名のみや聞きつつ居(を)らむ

巻五(八六八)
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松浦の県の佐用比売が領巾を振った山の名前だけを聞いて私は過ごすのでしょうか
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この歌は大伴旅人たちが松浦遊行に出かけたときに、同行できなかった山上憶良がその心情を述べて詠んだ三首のうたのうちのひとつ。
巻五(八七〇)の後の左注には天平二年の七月十一日の作と書かれているので、四月の「松浦河に遊ぶ」(巻五:八五三など参照)の遊行からは時間が開きすぎており、どうやら旅人たちは七月にもまた松浦に行ったようですね。

歌に先駆けて、序文の題詞があり、そこには…

憶良が心よりかしこまって謹んで申し上げます。
憶良は次のように聞いております。「諸国の国司や大宰府の官人は、ともに定めに従って、部下を連れて、管内の視察をする」と。わたしの胸中は思うこと多く、言葉に表現しかねます。ゆえに三首の拙い歌をもって体内の鬱積を除こうと思います。その歌は…

と、このように書かれています。
つまりは「諸国の国司や大宰府の官人は、ともに定めに従って、部下を連れて、管内の視察をする」という筑前国司としての仕事があるために松浦に共に行くことが出来ない鬱憤を訴えているわけですね。

つづけて歌では「松浦の県の佐用比売が領巾を振った山の名前だけを聞いて私は過ごすのでしょうか」と、ひとり残されて旅人たちの出掛けて行った松浦の山の名前だけを空しく聞いていなければいけない寂しさを詠っています。

「領巾(ひれ)」は頭から肩に掛ける女性の装身具で、振ると念願が叶える呪力があるとされていたようです。
松浦には宣化紀の佐用比売(さよひめ)がこの領巾を振って夫の大伴佐提比古(おほとものさでひこ)を追いかけて慕った領巾麾の嶺があり、この故事にちなんで憶良は旅人たちを慕う自身を暗に佐用比売に譬えてもいるわけです。
(佐用比売の伝説については巻五:八七一でまた詳しく解説します。)

このように留守番の身でありながらその身を歌に詠うことで、ある意味では山上憶良も旅人たちの松浦遊行に参加していることになる訳ですが、仕事の都合で仲間とともに遊びに出かけられない鬱憤を歌で表現したなんとも山上憶良らしい一首ですよね。


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万葉集巻五


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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