万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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み吉野の 耳我の峰に 時なくそ

天皇の御製歌(おほみうた)

み吉野の 耳我(みみが)の峰に 時なくそ 雪は降りける 間(ま)なくそ 雨は零(ふ)りける その雪の 時なきが如(ごと) その雨の 間なきが如 隈(くま)もおちず 思ひつつぞ来(こ)し その山道を

巻一(二十五)
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吉野の耳我の山には 時知れず雪が降るという 絶え間なく雨が降るという その雪や雨の絶え間ないように 道を曲がるたびに 物思いを重ねながら その山道を辿ってきたことだよ
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この長歌は、天武天皇(かつての大海人皇子)の作で、壬申(じんしん)の乱に関係する物語歌といわれています。
壬申の乱とは、六七二年、皇位継承を巡って、大海人皇子が吉野に隠棲し、その後、兄の天智天皇の子である弘文天皇(大友皇子)の近江朝廷を倒して、天武天皇となるまでの戦いです。

額田王の「味酒 三輪の山…」のところで紹介したように、天智天皇によって近江に遷された都が、この壬申の乱のあと再び奈良の大和に戻されるわけですね。

さて、この歌ですが、天武天皇が自分がまだ大海人皇子(おほしあまのみこ)だったころ、皇位継承を巡る争いの中で近江を去り、奈良の吉野にこもる道中を回想して詠ったものといわれています。
耳我の峰とは芋峠かもしくは吉野の金峯山のことでしょうか。
その峯に絶え間なく降るといわれる雪や雨のように、曲がり角ごとに絶え間なく物思いをしながらその山道を来たというのですが…

後に兄の子である弘文天皇の近江朝廷に反乱を起こすことにもつながる隠棲の道中なわけですから、やはり胸中には様々な複雑な思いがあったのでしょうね。

この後もしばしば出てきますが、万葉集の時代とはおおらかで穏やかなだけではなく、このように親兄弟や親類縁者が争い殺し合うような人間の争いの原点をも含んでいるのです…

歌としては前半が「絶え間なく」を引き出す譬えの序詞のようになっていながら、実際にもその場所を歩いているという非常に上手い構成になっていますね。
あと、「時なくそ」の「そ」は、「うまし国そ」と同じく、係り結びの「ぞ」です。


明日香村と吉野の県境にある芋峠山頂付近。



芋峠の解説板の中でにこの歌が紹介されています。


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万葉集巻一の他の歌はこちらから。
万葉集巻一


万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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