万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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内大臣(うちのおほまえつきみ)藤原卿(ふじはらのまへつきみ)の鏡王女を娉(よば)ひし時に、鏡王女の内大臣に贈れる歌一首
玉くしげ覆(おほ)ふを安(やす)み開けていなば君が名はあれどわが名し惜しも
巻二(九三)
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櫛箱のように開けずに覆っているのをいいことに安心していると夜が明け(開け)てしまって誰かに見られてしまいますよ。貴方の名はいいけれど私の名前が噂されると恥ずかしいのです。
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この歌は内大臣藤原鎌足(ふじわらのかまたり)と夜を過ごしたときに鏡王女(かがみのおほきみ)が贈った一首です。
鏡王女は先に天智天皇との間に交わした相聞歌(巻二:九一) や (巻二:九二)などがあることから天智天皇の恋人だったことがうかがわれますが、ここでは天皇の臣下の鎌足との間に関係を持っているということはこの巻二(九三)の歌が詠まれた時期にはすでに天皇の愛情は鏡王女の妹の額田王のほうに向いていて、鏡王女との関係は終わりを迎えていたということでしょうか。
いろいろと複雑な関係が想像されますが、この前後の歌が歴史を伝える一連の歌物語のようにも読めるのは万葉集の編者と云われる大伴家持の意図したところでしょうか。
以前にも語りましたが、藤原鎌足は中大兄皇子(天智天皇)とともに蘇我入鹿を討ち取り大化の改新(乙巳の変)を成し遂げた功労者で、天智天皇の信頼厚き臣下で友人でもありました。
この歌はそんな藤原鎌足と、かつての天智天皇の恋人であった鏡王女との間に交された相聞歌となっています。
「玉くしげ」は櫛を入れておく箱のこと。
櫛の箱のように夜が開けないでいるのをいいことにいつまでもここに残っていると、やがて夜が明けて人に見られてしまいますよ…貴方はそれでもいいかも知れないけど、私は困ってしまいます。
との、女心が素敵に詠われた一首ですね。
櫛箱の「あ(開)けない」と夜の「あ(明)けない」を掛けているところに歌の才の感じられる優れた一首のように思います。
鎌足と鏡大女だけでなく、この時代の逢瀬は夜に男が愛する女の家に通うのが普通でした。
出来るなら朝まで一緒にいたいけれど、人に見られて噂にならないうちに帰ってほしいとの複雑な女心は今の時代の我々にも通じるものがあるように思います。
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万葉集巻二
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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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