万葉集入門
日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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藤波の花は盛りになりにけり平城(なら)の京(みやこ)を思ほすや君
巻三(三三〇)
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藤の花は波を打つように盛りになりましたね。奈良の京が恋しく思われますか、君。
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この歌も先の巻三(三二九)の歌と同じく大伴四綱(おほとものよつな)の詠んだ二首の歌のうちのひとつ。
結句の「君」はおそらくは大宰府の長官である大伴旅人(おほとものたびと)のことであり、旅人の心情を思いやって詠んだ一首なのでしょう。
大宰府の様子を報告する「朝集師」としての役目を終えて奈良の京から戻ってきた小野老が詠んだ一首「あをによし寧楽の京師は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり」の歌が、京で起こった「長屋王の変」(巻三:四四一を参照)の後の藤原四兄弟の隆盛を感じさせる一首であることは巻三(三二八)の解説でも書きましたが、この四綱の歌で「盛りになりにけり」と詠われている「藤の花」もおそらくは「藤原家」のことを遠回しに表現したものではないでしょうか。
大伴旅人の大宰府派遣は一説によると藤原家との対立が原因の左遷であったとも言われています。
まあ、もし左遷でなかったとしても旧貴族派に属する旅人が新興貴族の藤原家から距離を置く存在だったことは間違いはないでしょう。
そんな旅人にとって、旧貴族派の頼みの綱である長屋王の自害は最後の希望を奪われるほどの衝撃だったことが想像できます。
それが藤原家の陰謀であったにせよ、天皇の了承を得てなおかつ旧貴族派であったはずの舎人皇子までもが長屋王を自害に追い込んだのですから、その衝撃は言葉では言い表せないほどだったのではないでしょうか。
それゆえに、これ以後の旅人はその心の内はともかく、表面上は藤原家との対立は避けて恭順に近い姿勢に転換したのではないかと僕には思えるのです。
あるいは、その仲立ちを藤原家寄りだった小野老が務めたとすれば、この小野老の帰還を祝う宴の一連の歌も、また違った印象で読めるかも知れませんね。
(ま、すべて僕の勝手な想像にすぎませんが…)
先の歌の解説でも書きましたが大伴四綱はその名から、旅人と同じ大伴一族の人間であり旅人寄りであることが想像できます。
そんな旅人の心情を思いやって、奈良の京を懐かしむ自身の心と共に傷心の旅人を慰めて詠んだ一首がこの歌だったのでしょう。
奈良市春日大社境内にある砂擦りの藤。
砂擦りの藤は地面に擦るほどに長い房の美しい藤で有名です。
(実際には地面にはとどいてませんが^^;)
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万葉集巻三
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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