万葉集入門
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日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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師大伴卿(そちおほとものまへつきみ)の歌五首

わが盛(さかり)また変若(をち)めやもほとほとに寧楽(なら)の京(みやこ)を見ずかなりなむ

巻三(三三一)
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私の盛りはまた若返ってやってくるだろうか。いやいや、もう奈良の京をほとんど見ることもなく終わるのだろう。
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この歌は大宰師の大伴旅人(おほとものたびと)が詠んだ五首のうちの一首。
「師(そち)」は長官の意味で、旅人は大宰府で最も大きな権限を持つ大宰師(だざいのそち)でした。
そんな大宰府での日々を送りながら、「自分にももう一度奈良の京での隆盛が戻ってくるだろうか。いやいや、もう奈良の京を見ることもほぼないだろう」との、なんとも消沈した感じの歌ですね。

この歌も、大宰府の様子を報告する「朝集師」としての役目を終えて奈良の京から戻ってきた小野老(をののおゆ)の帰還を祝う巻三(三二八)の歌から続く宴の席でのものだと思われますが、京で起こった「長屋王の変」(巻三:四四一を参照)のあとの旅人の心情がよく表れている一首のように思います。

あるいはこれらの旅人の五首の歌は、先の大伴四綱の巻三(三三〇)の歌に対する返歌なのかも知れませんね。

大宰府(現在の福岡県太宰府)という僻地に追いやられながらも旅人は、長屋王を中心とした皇親勢力がいつか藤原家を追い落とし自分も奈良の京に呼び戻される日が来ると期待していたはずです。
しかしその可能性も長屋王の変によって完全に断たれてしまいました。
たとえそれが藤原家による陰謀であったとしても長屋王の謀反が天皇によって認められ、藤原四兄弟の思惑通りに藤原家の血を引く光明子(こうみょうし)が皇后になった時点でその意思に逆らえば旅人も謀反人となってしまいます。
不本意ながらも藤原家中心の政権を受け入れるしかなかった旅人。

そんな「藤原家中心の奈良の京にはもう自分は帰ることも期待出来ないかも知れない」との失望を隠すことすら出来ず、弱音を見せるようなこの歌の内容となって表れたのでしょう。


平城京朱雀門。
結果を先に述べるなら、大伴旅人はこの数年後に奈良の京へ帰郷しますが、その翌年には病を得て亡くなってしまうのです。


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万葉集巻三


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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