万葉集入門
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現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)

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但馬皇女(たぢまのひめみこ)の御歌一首 一書(あるふみ)に云(い)はく、子部王(こべのおほきみ)の作

言(こと)しげき里に住まずは今朝(けさ)鳴きし雁(かり)に副(たぐ)ひて去(い)なましものを
〔一(ある)は云はく、国にあらずは〕


巻八(一五一五)
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人の噂のうるさい里に住んでいるよりは今朝鳴いていた雁と一緒にここを去ってしまいたいものです
〔一に云はく、国になどいないで〕
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この歌は但馬皇女(たぢまのひめみこ)が詠んだ一首です。

一書(あるふみ)によると子部王(こべのおほきみ)の作となっているようですが、これはおそらく但馬皇女の歌を後に子部王が好んで口誦したために作者名が紛れたのでしょうね。
子部王については詳しいことはわからないようです。
「一に云はく…」の部分は、二句目の異伝ですが、子部王などの人々に口承される過程で語句が入れ替わったものでしょうか。

但馬皇女(たぢまのひめみこ)は天武天皇(てんむてんわう)の皇女で、穂積皇子の異母妹。
但馬皇女と穂積皇子というと、この二人の兄妹が恋愛関係(この当時、母親の異なる兄妹の恋愛は許されていました)にあったという穂積但馬物語(巻二:一一四などを参照)を連想してしまいますが、この歌もおそらくは穂積皇子への恋心に悩む心情を詠ったものだったのでしょうね。

先の巻八(一五一二)の歌や巻八(一五一三)の穂積皇子の歌と並んで掲載されているのもそのあたりのことを念頭に置いた編者の意図を感じます。
ただ、穂積皇子の二首の歌はどちらも純粋に秋の到来に心を惹かれた歌のように感じられることから、先の二首は本来は但馬皇女との恋愛とは関係のない別々に詠まれたものだったのでしょう。
これらの歌が秋の相聞歌ではなく雑歌の部類に収録されているのもそういうことなのでしょうね。

歌の内容は「人の噂のうるさい里に住んでいるよりは今朝鳴いていた雁と一緒にここを去ってしまいたいものです」と、穂積皇子との恋愛関係を噂する人々に心を悲しませた内容ですが、後の世まで子部王が好んで口誦したことからも人々がこの二人の恋を好意的に見ていたことは想像できますね。


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万葉集巻八


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県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。

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