万葉集入門
現存する日本最古の和歌集「万葉集」の解説サイトです。
分かりやすい口語訳の解説に歌枕や歌碑などの写真なども添えて、初心者の方はもちろん多くの万葉集愛好家の方に楽しんでいただきたく思います。
(解説:黒路よしひろ)
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藤皇后(とうくわうごう)の天皇(すめらみこと)に奉(たてまつ)れる御歌一首
わが背子(せこ)と二人見ませば幾許(いくばく)かこの降る雪の嬉しからまし
巻八(一六五八)
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私の慕わしい方と見ましたらどれほどかこの降る雪もうれしいことでしょう
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この歌は藤皇后(とうくわうごう)が聖武天皇(しやうむてんわう)に奉った御歌です。
藤皇后は光明皇后(こわうみやうこわうごう)のこと。
光明皇后は通称を光明子(こわうみやうし)ともいい、藤原不比等(ふぢはらのふひと)の娘です。
本来、大宝律令によって皇后には皇族出身者以外はなれないと解釈されていたのですが、朝廷内を藤原家の意のままにしたい藤原四兄弟の画策などもあって光明子は初の皇族以外からの皇后となりました。
ちなみに有名な長屋王の変(巻三:四四一などを参照)は、律令を重んじる長屋王(ながやのおほきみ)が光明子の立后に反対したために藤原四兄弟の策謀で謀反の罪を着せられて殺害されたのだともいわれています。
ただ、そんな男たちの血なまぐさい権力争いとは関係なく、あるいは犠牲になった者たちへの償いの気持ちがあったのか、光明皇后ご自身は仏教に深く帰依した慈悲深い人物でもあったようですね。
この歌はそんな光明皇后の詠まれた一首ですが「私の慕わしい方と見ましたらどれほどかこの降る雪もうれしいことでしょう」と、夫である聖武天皇とともに今降る雪を眺めたいとの静かな願いの一首となっています。
万葉集には天武天皇と藤原夫人が雪を詠った相聞歌(巻二:一〇三および巻二:一〇四を参照)が集録されていますが、光明皇后のこの歌もおそらくそれらの歌を念頭に置いて詠まれたものでもあるのでしょう。
愛する人とただ二人雪を眺めるだけの幸せ…
皇后の位にまでついてその後の朝廷にも多大な影響を誇った光明皇后でしたが、彼女が真に望んでいたものはあるいはそんなささやかな幸せだったのかも知れませんね。
奈良市の東大寺大仏殿裏にあるこの歌の歌碑。
大仏殿の外の北西の角にひっそりと建っています。
歌碑の裏の解説。
奈良市法華寺町の法華寺にある「から風呂」(現在のものは江戸時代に再建)。
慈悲深い光明皇后が千人の病人の身体を洗ってやりたいとして建設させたもので、光明皇后ご自身が病人の身体の垢を落としてやったとの伝説もあります。
ちなみに伝説によると、千人目の病人は全身にひどい膿をもった患者で、皇后が口で膿を吸い出してやるとその身体は黄金に輝きだし阿閃如来となって飛び去ったともいいます。
もちろん伝説にすぎませんんが、そんな物語が語られるほどに光明皇后が慈善活動に力を入れた人物であったということなのでしょう。
「からふろ」の解説。
から風呂に使われていた井戸(法華寺)。
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万葉集巻八
万葉集書籍紹介(参考書籍)
万葉集(1)〜〜(4)&別冊万葉集辞典 中西進 (講談社文庫) 定価620円〜〜1020円(税込み)
県立万葉文化舘名誉館長でもある中西進さんによる万葉集全四冊&別冊万葉集辞典です。
万葉集のほうは原文、読み下し訳、現代語訳、解説文が付けられていて、非常に参考になりこの4冊で一応、万葉集としては充分な内容になっています。
他の万葉集などでは読み下し訳のみで現代語訳がなかったりと、初心者の方には難しすぎる場合が多いですが、この万葉集ではそのようなこともありません。
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